能力は生まれ持ったものか、成長するものか

Amazonから入ってきた広告で紹介されていた本ですが、面白そうだったので、ちょっとネットでも調べてみました。Carol Dweck (スタンフォード大教授)という心理学者の研究なのですが、心的態度と意欲や自己意識、他の人への対し方との関係性に焦点を当てたものです。

「能力」についてのイメージの仕方に、大きく分けて、固定的・生得的なものだとする捉え方と、動的で成長するものだとする捉え方があることを指摘し、そのイメージの仕方の違いが、自分や他の人の評価、やる気、失敗などへの対し方など、生きる上での様々な局面での考え方、態度をどのように形作っていくか、について非常に示唆に富んだ論を展開しています。

まだざっくりとした理解ですが、端的に言うと以下のような主張です:

人の能力を固定的、生得的なものだとイメージする人は、

  • 有能に見えることを強く望む(逆に無能に見えることを強く恐れる)
  • 挑戦やリスクを避ける
  • 努力することの意味について懐疑的
  • 批判や失敗に対して自己防衛的態度をとりがちで、そこから学ぼうとはしない
  • 障害があるとすぐに諦めがち
  • 失敗からの立ち直りが遅い
  • 他の人の成功を脅威に感じる

>その結果、早い段階で成長が鈍化し、真の可能性をいっぱいに発揮できない

人の能力を動的で成長するものだとイメージする人は、

  • 学ぶことに強い意欲を持っている
  • リスクや困難に積極的に取り組む
  • 失敗や逆境に負けにくい
  • 努力することに意欲的
  • 批判や失敗を受け入れそこから学ぼうとする
  • 他の人の成功から学びや刺激を得る

>能力の面でも実績の面でも進化し続ける

エッセンスをまとめるとすれば、能力を固定的に捉える人は、自分の「今の能力」に囚われ、それをただ守ることに固執してしまうが、能力を動的に捉える人は、自分の能力を伸ばすことに注意を向け行動するため成長し続けられる、ということになります。

この研究の結論の重要な論点は、一般的に持たれがちな固定的・生得的な能力観が実は我々の成長可能性を封じてしまう落とし穴であるという部分だと思います。懐疑心の強い向きには、気持ちが良くなる自己啓発メッセージみたいでなんかなぁ、と思えてしまうかもしれませんが(私自身もはじめは少しそんな気がしました)、この論点が大事になってくるのは、自分の能力の伸びしろについてもさることながら、人を育てるプロセスにおいてだと思います。

人を育てる場では、能力が進化するものであるということが大前提でなくてはなりませんよね。もし能力が固定的なものだとしたら、学校のシステムでできることは子どもたちを能力別にふるい分けることくらいになってしまいます。ただ、今の教育のシステムが本当に動的な能力観に基づいてとことん作り込まれているのか、と考えるとかなり心許なくも思えます。

結構面白そうなので、本をしっかり読んでみようと思いますが、まずは読めるもの(英語で書かれたものですが)をご紹介しておきます:

“The effort effect” — Stanford Magazine 2007
Dweckの研究の発達の過程をわかりやすくまとめて解説した記事
“What do we tell the kids?” — Stanford Magazine
子供のほめ方について、Dweckの研究を応用したアドバイスをまとめている
“The secret to raising smart kids” — Scientific American 23(5): 2015 Jan

 

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