「デザイン思考」への期待

今、問題の見極めと課題設定・解決のアプローチとしての「デザイン思考」に関心を持っています。

ちょっと長いですが、より多くの人たちと一緒に考えたいので、なぜ「デザイン思考」に関心があるのか、を少し詳しく書いてみます。

自分にとって一番重要だと思えるのが「現場」と「当事者」からスタートすることです。

「デザイン思考」では、問題状況の分析と課題設定をするときに、まず問題の現場に向かい、そこでのフィールドワークを通して、当事者を取り巻く状況をじっくり見回し、当事者の目線で状況を理解するところから始めます。このアプローチは、遠くから外形的に問題状況を観察し、一般的論理に基づいて分析を進めるやり方とは大きく異なるものです。

ちょっと単純化した例で考えてみます。例えば、ある学校で中3の1クラスで数学の成績がふるわないという問題があったとします。これがどのような問題なのかを見極めようとするとき、理屈で考えると、以下のような要因が考えられそうです:
a) そのクラスに数学が不得意な子ばかりが集まっている
b) そのクラスを担当している数学教員の教え方が悪い

そうなると対策は
a’) そのクラスだけに特別補習をする
b’) 担当教員の教え方を変える
b’’) 担当教員を替える
といったあたりになりそうです。

でも現場に行って観察し子どもたちに話を聞くと違った光景が見えてくるかもしれません。例えばそのクラスの数学は決まって昼食後の眠い時間帯ににあって皆眠くて仕方がない、としたら、どうでしょうか。

デザイン思考のよいところは、現場に身を置いて直接観察し、当事者たちの話を聴くことでその文脈を理解し、当事者が置かれた状況を肌で感じることを重要視して、それを基盤として問題解決への取り組みを方向付けることです。

これは、永年フィールドワークを通して言語を調査・研究してきた自分にはすごくしっくりとくるアプローチです。

現場を訪れるときにいつも思いますが、遠くからは単純に見えるような現象でも、実際には遙かに複雑で、あいまいなものです。問題現象(あるクラスの数学の成績が良くないこと)が直接的・論理的要因(生徒の学力が低い;教師の教え方が悪いなど)によってのみ引き起こされているような単純な例は現実には少ないものです。特に今のような変化の激しい時代には、一見関係なさそうな間接的要因や制約の数々が複雑に絡みあって、一筋縄では解決しにくい状況を作りだしていることの方が多いでしょう。

だからこそ、単純化した論理思考を当てはめて問題が分かった気になって筋違いの解決法をどんどん考え出す力よりも、現場に行って良く周りを見回し、人の話に耳を澄ませ、そこから問題状況を丁寧に解きほぐして、当事者に向き合った解決法を探る、そんな現場に根ざした柔軟な知性を育てたいと思うのです。デザイン思考はまさにそういうアプローチのように見えるので、期待しています。

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