こだわり、関われば、世界は変わる

この「世の中」、なんでこうなんだろう。もっと良くなればいいのに!

そんな風に思うことは少なくない。

でも、「世の中」って、自分でどうにかできるものではないし、ただこうなればいいのにと願ったり、思い通りにならないことを愚痴ることくらいしかできない。そう思えてしまう。

確かに、世の中の趨勢は1人の人の行動でどうにかなるものじゃない。

でも同時に、意外と気がついていないのは、  自分が理念として求める(と言っている、もしくはそう思っている)ものと、その場その場の場での実際の選択行動が一致していないことが結構多いということ。

安売りの店ばかりがはびこると残念がりながら、買い物は安売りの店に行く。
伝統芸能が失われてしまうと嘆きながら、実際に伝統芸能を見に行きはしない。
心がこもっていない仕事が増えていることを嘆きながら、心をこめた仕事はしない。
お互いに無関心な都会の社会崩壊を憂いながら、他の人のことに関心は持とうとはしない。

もちろん全てにおいて選ぶべき選択肢を選ぶことは難しいかもしれない。職人の技をサポートしたいけどお金がないとか。

でも、自分の選びかたが「世の中」を少しずつだけど確実に形作っていることを意識していたい。

何だかんだと言っても、結局世の中の形はこれまでの人々の選択の積み重ねによって形作られている。

だから、いいと思ったこと、変えたいと思ったことには、関わろう。

どんなに小さな、どんなにささやかな形でもいいから。

一人の一つの選択、一つの行動が「世の中の流れ」を作っていることを意識して、主体的に関わっていこう。

今欲しがっているものではなく、求めるべきものを

人々が欲しがっているもの、今売れるものをタイムリーに提供することで利益を上げることはできる。世の需要に応えているという点では人や世の中の役に立っているとも言えるのかもしれない。

でも、本当にめざしたいのは、人々が自分たちでもまだ気がついていない大事なこと、必要なことに気づかせること。

人は目先の欲に流されたり、よく考えないで行動したり、何となく面白そうだからというような理由で動いたりする。そんな衝動に訴え(つけ込んで)人々に買わせることはできる。

それに対して、人々に本当に大事にすべきものを示していく、夢見るべき未来を見せていくことは簡単ではないし、時間も手間もかかる。

でも、これこそが我々がめざすべきこと。

Inspired by: Seth Godin’s blog: Give the people what they want

楽観はスキル

この先いいことが起こりそうか
やることがうまくいきそうか
いい人に出会えそうか

これは外的な要因で決まっている、どうにもできないこと
そんな風に思えるかもしれない
そう信じて疑わない人も多いかもしれない

でも、実はこれは我々のものの見方の問題
そして、ものの見方は、その気になれば身につけることができるスキル
決まってしまっているわけでも、我々にどうにもならないわけでもない
自分の意思でどうにでもなる

それに気づくだけでも、見通しが明るくなるよね

能力の動的捉え方と「今」の質

「能力は生まれつきのものか、成長するものか」についての研究の話について、もう少し考えてみました。

人の能力が動的に変化するもので生得的に固定されたものではないというのは大事にしたい意識です。

動的に捉えることで、その時々の「今」の出来、不出来に一喜一憂することなく、理想に届いていない「今」にいたずらに焦ることもなく、明日また新しい行動を積み重ねていく気力が湧いてくるでしょう。動的な能力の捉え方は、我々を「今」にとらわれる気持ちから自由にし、未来への進化の広がりの中に位置づけてくれます。

でも、一方で、こうした捉え方は、それだけを強調すると問題があります。例えば、明日があるのだから今やらなくてもいいだろうと先送りを繰り返し、その時々にこだわらずにただ流してしまうような態度にもつながりかねません。また、よりよく進化するであろう将来の可能性ばかりを考えて、「今」形にすることができなくなってなってしまうかもしれません。いわゆる「完璧主義者」にありがちな状態です。どちらも、その時々の「今」を軽視する態度です。

明日の変化や可能性を意識することは大事ですが、その変化や可能性の質を高いものにするには、その時々の「今」を大切にする態度が不可欠です。

その一つは、「今」に真剣に向き合って全力で働きかけること。

我々はこの世界に生きていますが、その世界に直接働きかけることができる唯一の接点は「今」しかありません。我々の人生は過去にも未来にも延びていますが、過去や未来は我々が働きかけられるものではありません。我々の人生は「今」の積み重ねでできていて、「明日がある」ということは、「今に代わるより良い働きかけのタイミングが明日にある」ということではなく、「明日は明日の『今』がある」ということです。ですから、我々の生きる営みの質と価値を上げる手立てがあるとすれば、それは「今」の行動の質と価値を上げることでしかありません。

もう一つは、「今」形にしなくてはならないということ。

より良いものを求めて「今」形にすることをやめて「可能性」のまま明日に送る−−それを繰り返す限り、世界には何も起こらず、生きる営みの跡も残りません。

能力の変化は、その時々の「今」に真剣に働きかけ、形に残していくことを通して初めて実体化します。

最後にもう一つ。人の能力の変化がより高い方向への「進化」になるためには、もう一つ「今」においてやるべきことがあります。それは、「選ぶ」ことです。

選ぶことなく行き当たりばったりで行動しても、その行動の積み重ねは一貫性を持たないバラバラの行動の寄せ集めに終わってしまいがちです。その積み重ねを「進化」や「成長」として方向付けるものが、何をやって何をやらないかという選択です。そして、その選択をガイドするのが自分が追求するミッションであり、価値観です。成し遂げたいこと、大切にしたい価値を実現するために今どんな行動をすべきか、ということです。

「今」に対して全力を尽くす、形にする、そして自分のミッションに沿って選ぶことによって、「今」の質と価値を一つの方向に向かって高める。その中で、人の能力は単に「変化」するだけでなく「成長」し「進化」するのでしょう。

能力は生まれ持ったものか、成長するものか

Amazonから入ってきた広告で紹介されていた本ですが、面白そうだったので、ちょっとネットでも調べてみました。Carol Dweck (スタンフォード大教授)という心理学者の研究なのですが、心的態度と意欲や自己意識、他の人への対し方との関係性に焦点を当てたものです。

「能力」についてのイメージの仕方に、大きく分けて、固定的・生得的なものだとする捉え方と、動的で成長するものだとする捉え方があることを指摘し、そのイメージの仕方の違いが、自分や他の人の評価、やる気、失敗などへの対し方など、生きる上での様々な局面での考え方、態度をどのように形作っていくか、について非常に示唆に富んだ論を展開しています。

まだざっくりとした理解ですが、端的に言うと以下のような主張です:

人の能力を固定的、生得的なものだとイメージする人は、

  • 有能に見えることを強く望む(逆に無能に見えることを強く恐れる)
  • 挑戦やリスクを避ける
  • 努力することの意味について懐疑的
  • 批判や失敗に対して自己防衛的態度をとりがちで、そこから学ぼうとはしない
  • 障害があるとすぐに諦めがち
  • 失敗からの立ち直りが遅い
  • 他の人の成功を脅威に感じる

>その結果、早い段階で成長が鈍化し、真の可能性をいっぱいに発揮できない

人の能力を動的で成長するものだとイメージする人は、

  • 学ぶことに強い意欲を持っている
  • リスクや困難に積極的に取り組む
  • 失敗や逆境に負けにくい
  • 努力することに意欲的
  • 批判や失敗を受け入れそこから学ぼうとする
  • 他の人の成功から学びや刺激を得る

>能力の面でも実績の面でも進化し続ける

エッセンスをまとめるとすれば、能力を固定的に捉える人は、自分の「今の能力」に囚われ、それをただ守ることに固執してしまうが、能力を動的に捉える人は、自分の能力を伸ばすことに注意を向け行動するため成長し続けられる、ということになります。

この研究の結論の重要な論点は、一般的に持たれがちな固定的・生得的な能力観が実は我々の成長可能性を封じてしまう落とし穴であるという部分だと思います。懐疑心の強い向きには、気持ちが良くなる自己啓発メッセージみたいでなんかなぁ、と思えてしまうかもしれませんが(私自身もはじめは少しそんな気がしました)、この論点が大事になってくるのは、自分の能力の伸びしろについてもさることながら、人を育てるプロセスにおいてだと思います。

人を育てる場では、能力が進化するものであるということが大前提でなくてはなりませんよね。もし能力が固定的なものだとしたら、学校のシステムでできることは子どもたちを能力別にふるい分けることくらいになってしまいます。ただ、今の教育のシステムが本当に動的な能力観に基づいてとことん作り込まれているのか、と考えるとかなり心許なくも思えます。

結構面白そうなので、本をしっかり読んでみようと思いますが、まずは読めるもの(英語で書かれたものですが)をご紹介しておきます:

“The effort effect” — Stanford Magazine 2007
Dweckの研究の発達の過程をわかりやすくまとめて解説した記事
“What do we tell the kids?” — Stanford Magazine
子供のほめ方について、Dweckの研究を応用したアドバイスをまとめている
“The secret to raising smart kids” — Scientific American 23(5): 2015 Jan