需要は追いかけずに創りたい〜自分の価値を自分で決められるように

モノやサービスの価値を世に問おう(売ろう)とする時、すでにあるマーケットに参入する方が安心。そこにはすでに他の会社などが開拓した需要があるから。

でも、すでに開拓されたマーケットから利益を得ようとすると、自分のサービスをそのマーケットの需要・価値観に合わせなくてはならない。さらに、多くの場合、同じマーケットをターゲットとした競合他社との競争に巻き込まれるため、安売り競争に取り込まれる。

そんな中では、自分の真の強みは発揮できないばかりでなく、そのうち安売り競争よって疲弊してしまうだろう。利益が上がりにくいことも苦しいだろうが、もっと辛いのは自分の営み、そしてそれを生み出す自分自身までもが「モノ」のように扱われることだろう。

安売りに群がる人たちはこちらのサービスを「他で提供されているのと交換可能な消費物」としか見ない。他での商品と同じだからどこで買っても同じ。それなら安い方がいい。となる。値段だけが尺度になってしまっている。そんなやり取りの中では一生懸命心を込めて生み出した営みも「単なるモノ」として扱われ、自分もそんな「モノ」を生み出すロボットのように感じられてしまう。

サービスや商品を送り出そうとするときは自分が持てる真の強みを基盤として、新しい価値、そしてそれを求める新しい需要を創り出すことをめざそう。特にはじめは苦しいけれども、本当に自分が提供したいものを売っていくには、独自のマーケットを創り出して行くことが大事。

この視点は、モノやサービスの提供だけでなく、世の中における自分の価値をどのように打ち立てていくかを考える上でもとても重要だと思う。

自分の役立ち方を既存のサービスや役割の中にはめ込んで考えるのではなく、まず、自分がつながりたい人たち、自分が応えたいニーズや期待を絞り込んで、その人たち、そのニーズに真っ正面から応える方法を考えたい。そうすることで、本当に自分が望む形で世の中に役立つことが出来るんじゃないかな。

言い訳せずにやりたいことをやり抜く覚悟

「一人前の大人」になるにしたがって、やらなければならないこと、締切が迫っていることばかりに追われることが多くなる。

そして、なぜか本当にやりたいこと、本当に楽しいことは後回しになりがち。

だって、忙しいのだから仕方がない。そんなことやっている暇がない。誰も私の代わりにやってくれない。やりたいこと、楽しいことは、この忙しさが一段落ついたら、暇ができたら、誰かが手を貸してくれたら、その時にやる、と。

でも、そんな時が来るのだろうか。

ひょっとしたら。

でも、自分を取り巻く外的な環境が自分に都合よく変わることを願うばかりでは、他人頼みになってしまう。周りの自主的な変化を当てにするということは、それに振り回されることになる。その変化がいつかいつかと待ち、一向に起こる気配がないと、いらつく。いつになっても状況が好転せず、なすがままになっている無力感が募る。

この焦燥感、無力感、よくよく考えてみると、外から押しつけられたものではなく、自分自身で働きかけることを放棄した結果。

考えてみれば、今の「忙しい状態」は自分の仕事の仕方、引き受け方の習慣に基づく継続的な状態。つまり、環境と自分との関係がそういう状態を作り出している。自分を取り巻く状況は、周りの環境にも要因があるが、自分のあり方もその形成に加担している。だから、今の状況は自分にも責任があるし、だからこそ自分で変えることもできる。

そんなこと言ったってそう簡単に変えられるもんじゃない。たしかに、全て自分の思い通りにはならないだろう。しかし、「変えられない」と感じるものの多くの部分は周囲との関係よりも、自分の習慣。自分がこれまで持ってきた価値観、行動の仕方、やり方、それが「変えられない」。

何も変えずに状況は変えられない。自分で変えるということは、周りを自分の思い通りに変えるということではない。自分「が」変わる。自分の行動パターンを変えることで、不思議と状況が変わる。

だから、大人になって、やりたいこと、楽しいことができなくなるように思えるのは、使いやすい言い訳が増えるからに過ぎない。

やり遂げようという覚悟を決めて、下手な言い訳をせず、やり抜けば、なんてことはない、本当にやりたいこと、楽しいことはいくらでもできる。

「何を」よりも、まず「誰に」与えたいか

セス・ゴディンのブログにこんなことが書いてありました:

顧客と一口に言っても、世界観、価値観、抱えている問題、求めているストーリー、支払ってもよいと思っている対価・時間、すべて面でマーケットは均一ではない。

商品やサービスを売ろうとするときに、まず売るものを決めて、作り込み、マーケットに投入してみる。でもこういうやり方だとハズレも多い。

まず考えるべきは何を売るかではなく、誰に売りたいか。それを決めてから、その人たちだけをターゲットにした、具体的なニーズに応えるものを作る。

この話はモノやサービスの提供について書かれてはいますが、どんなことであっても、人のために何かを作り出そうとするとき、全く同じことが言えますよね。

僕がやりたいことは、好奇心を刺激したり、価値観や世界観を広げたり、考える力を鍛える手助けをしたり、自分でもできるというやる気を起こさせたり、という人に力を与えることが主ですが、どんな人、もしくはどの人に向き合いたいのかを突き詰めると、やるべきことがはっきりとしてくる気がします。

みなさんも、人のため、世のために何かをしたいけど、何をして良いか分からない、もしくは今ひとつ効果が感じられない、というときは、どの人に向き合うのかを具体的に絞り込んでいくと見えてくることがあるかも。

[読] Creativity, Inc. (ピクサー流 創造するちから)

Creativity, Inc.: Overcoming the Unseen Forces That Stand in the Way of True Inspiration

『ピクサー流 創造するちから』

John Lasseter と共にPixarを作り引っ張ってきた Ed Catmull が書いた本。

常に観る人の想定を越えて、アッと言わせる作品を生み出し続ける共同的創造作業の現場をどのように作り、維持してきたのか、その苦労を、これまでの作品作りの舞台裏を明かしながら、自らの経験として語っている。Pixarの映画作りの歴史の本としても楽しめる。

この本を読むと、Pixarのマジックは決してただの幸運などではなく、身と心を削る苦労の賜物だということがよく分かる。

Pixarの活発な創造空間を維持しているものは簡単なスローガンなどには決してまとめられるものではないが、すべての人を生かし切る、率直に建設的に意見を言い合う信頼関係を保つ、積極的にリスクを冒せる安心を保つ、環境や関係の変化に対応して常に柔軟に考え動く、などの指針が心に残った。

日本語版を読み始めたが、誤訳や分かりにくいところが多々あったので、英語版を買い直して読んだ。英語版の文章はとてもよく書かれていて読みやすく、感動的。日本語翻訳もがんばってはいるが、原書の魅力が十分訳し切れていないのが何とも残念。